開店情報

【東京・尾久】都電に乗ってパリに行ける!?突如現れた異空間『+hcafe』の魅力に迫る

 都内でも屈指の下町文化が残る荒川区。未だ活気に溢れる商店街や伝統的な木製の長屋、歴史を感じる町工場が下町の雰囲気を作り出していますが、毎日のんびりと走る都電荒川線(東京さくらトラム)もまたその情緒を生み出す大きな要因の一つであることは言うまでもありません。誕生100余年、三ノ輪橋から早稲田までを結ぶ12.2kmを1時間ほどかけて進む姿は町の風物詩となり、多くのファンを魅了しています。そんな都電には車庫としての機能を持つ駅があります。それが”荒川車庫前駅”。荒川区最北端かつ最西端の駅である荒川車庫前付近は荒川区屈指の飲食店激戦区となっています。下町ど真ん中ということもあり、中華料理店やラーメン店、インドカレー店などが多い中、とにかくお洒落な欧風カフェが出来たと地元で話題のお店があります。その名も『+hcafe(アッシュカフェ)』。目の前の通りを歩く人がほぼ必ずと言っていいほど一度は立ち止まるこのカフェ。それもそのはず、外見は倉庫のような建物で素朴ですが、中は日本とは思えないまさに異空間が広がっています。しかもよく見ると店内にアンティークカーのようなものまであります。

いきなりの渡仏と帰国後のキッチンカー

 オーナーであり建築家の浅見和宏さんは、2007年の夏に家族4人で芸術の都パリへの移住を決意します。奥さんであるで博子さんはその頃、子育てをする傍ら自宅で料理・お菓子教室を主催しており、生徒は50人にものぼる程の人気ぶりでした。博子さんの得意料理はフランスを代表するケーキ”タルトタタン”。過去に仕事でフランスに行った際にあまりのおいしさに感動し、帰国後もよく作っていました。本場の料理を学びたかったこともありフランス行きは大賛成。そこから7年にも渡るフランス生活が続きます。フランス人パティシエのもとで修行した博子さんは、日本へ帰国後直ぐにカフェを始めようと思い、まずは小規模からのスタートということでキッチンカーを始めます。

 そこで選んだ車は後の店名の由来にもなるフランスの名車”アンティークカーシトロエン typeH(アッシュ)”。50年前の車体とは思えないほど美しいアンティークカーで都内の様々な場所に出店し、タルトタタンや自家製アイスクリームなどフランスのパティスリーを提供していました。お洒落な雰囲気と本格的なパティスリーは人気を博し、2018年4月20日、ついに固定店『+hcafe』を オープンします。

アンティークショップのような店内

 固定店を始めると言っても思い入れのあるシトロエンHを手放すことはできないと思い、車ごと展示できるお店を探した和宏さん。都内でそれだけ大きな物件を探すのは容易ではありませんが、町工場の多い荒川区には実は空き家となった工場が多くあります。これなら希望の物件が見つかるのではと探し始めたところ、この場所に出会います。見学した瞬間「ここだ!」と感じ、即契約に至るところは相変わらずの行動力。直ぐ様ボロボロの工場を和宏さんの設計のもとリノベーションに取り掛かります。フランス仕込みの建築術によって店内は見違えるように生まれ変わります。家具や雑貨にもこだわりが強く、そのほとんどがヨーロッパのアンティークショップから輸入したものです。

 ロンドンから仕入れたアンティークの椅子や店内の片隅にはなんとフランスの有名な建築家エクトールギマールが作った暖炉まで。アンティークショップというよりもはや美術館のようです。店内にいると、ここが日本であること、ましてや下町荒川であることを思い出すのは容易ではありません。

名物”タルトタタン”と”手作りキッシュ”に舌鼓

 アンティークショップや美術館のようだとは言ったはものの、ここはカフェ。食事やデザートも気になるところです。博子さんにオススメを聞くと”タルトタタン(自家製アイスクリーム付き600円)”だと言います。運ばれてきてまず感じるのが、この厚み。しっかりキャラメル化させたリンゴが生地の上に想像の倍くらいのボリュームで乗っていますが、甘すぎないためくどくないのです。むしろ酸味と甘みのバランスが良く、驚くほどさっぱりしています。シンプルな味付けの生地は主張しすぎずリンゴの旨味を絶妙に引き立て、サクッとした食感は完熟したリンゴとの程よい複雑味を生んで、まさにフランス料理であることを感じさせられます。博子さんは初めてフランスに行った時から25年タルトタタンを作っており、後の7年間の渡仏生活も含め研究に研究を重ねて今の味になったと言います。美味しくないはずがありません。

 続いてランチのオススメということで”キッシュプレート(900円)”をいただくことに。アルザスロレーヌの郷土料理であるキッシュはヨーロッパではランチの定番であり、近年日本でも人気が高まっています。キッシュプレートは週替わりなので常連さんにも人気なのだとか。この日は、きのこと里芋のキッシュを始め、ランティーユを使ったライスサラダやハーブとスパイスの効いたお芋のサラダ、バルサミコがアクセントの水菜のサラダ、フランス風のスイカのサラダ。これにパンとスープがついて900円と言うから驚かずにはいられません。栄養もしっかりとれる上、味や香り、食感全てが計算され尽くしています。フランス製のナイフとフォークを使って優雅に食べていると、もう完全にパリジェンヌになったのかと錯覚を引き起こします。
 東京からパリまではおよそ12時間。じっくり旅をするには2週間は欲しいところ。まずは週末にでも、ぶらり都電に乗って荒川のパリを満喫してみてはいかがでしょうか。

■文、写真・片岡力也

店舗名 +hcafe(アッシュカフェ)
住所 東京都荒川区西尾久8-45-11
電話番号 03-4283-3780
アクセス 都電荒川線荒川車庫前駅から徒歩4分
営業時間 11:30~17:00
定休日 木曜日
ホームページ https://www.lestyleh.com
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