【東京・町屋】町屋の人気エスニック料理店『n.r store』人気の秘訣は圧倒的なこだわり

　東京都荒川区。昭和の香りが残るこの街には、どちらかというとお洒落なお店よりやや雑多な大衆的なお店が多く集まっています。「生ビール！」と叫ぶと、「今ちょっと忙しいから自分で注いどいて！」なんて言われることも多々あるくらい、いい意味で適当なお店が多いのです。
　そんなこの地に、他のお店とは雰囲気が異なる、味や食材はもちろん、雰囲気やレイアウトにまでこだわり尽くしたエスニック料理店『n.r store』ができました。口コミが次第に広がり、オープンから2年、早くも多くの常連客に愛されて連日大いに賑わっています。

レトロな町屋で異彩を放つこだわりの店舗

　荒川区、特に町屋というエリアは懐かしさを感じさせるスポットが多く、昭和にタイムスリップしたような気持ちになることもしばしば。東京で唯一残る都電荒川線のどこか懐かしい踏切音が響き、『n.r store』のすぐ前には何十年とこの街で営業を続ける八百屋が下町情緒を彩っています。
　そんな古き良きと、東京らしいモダンな風景が入り混じっているのが町屋の良さであり、同店はまさにそんな時代の流れを体現したようなお店です。

　エスニックな雰囲気を纏う『n.r store』は、目の前を通る地元の方の目を釘付けにし、口コミでたちまち話題になりました。店舗はオーナーである美濃さんと木工を営む旦那さまによる手作りで、二人がよく旅行するベトナムのお気に入りのカフェを意識したと言います。外観は、一見今時のモダンなカフェに見えますが、昔のレトロな共産主義時代をコンセプトにしているカフェとなっています。

　食器や雑貨はオーナー夫妻が実際にベトナムで買い付けたもの。ついここが現代の東京であるということを忘れさせられます。

　また、旦那さまが作った作品も数多く並べられており、どれも手が込んでいて見ているだけで楽しい気分になります。食事はもちろんですが、料理を待っている間ですら楽しませてくれるこの異空間もまた同店の特徴です。

無化調にこだわった絶品手作り料理

　メインで提供しているのはベトナム料理。近年日本人に絶大な人気を誇っていますが、同時に多くの化学調味料を使用していることでも有名です。「美味しいのは当たり前で、その上で安心して食べてもらいたいです。」と熱心に語る美濃さん。料理はどれも手作りで、化学調味料は一切使用しません。

　ベトナム料理の定番である鶏肉のフォー（単品830円 ランチセット1,100円）は国産地鶏の鶏ガラをベースに、パクチーの根っこ、レモングラス、しょうが、玉ねぎ、香味野菜などをじっくり煮込んでスープをとり、八角、シナモン、クローブなどを効かせた深い味わいを生み出しています。口に運んだ瞬間、さっぱりとした自然派な風味がしますが、後からコクと深みがじんわりと口の中に広がり箸がすすみます。

　こちらも定番のベトナム料理であり、『n.r store』で最も人気のレバーパテとベトナムハムのバインミー（単品680円 ランチセット1,000円）は、なんとパテやハムに、マヨネーズ、チリペーストまで手作りと言います。通常レバーが多めのパテですが、同店では赤身とレバーを半々にすることでレバーの臭みがなくなり、子供でも食べやすいのが特徴です。
　パテやハムの美味しさを失わないように、マヨネーズも酸味の強い市販のものは使わず、自身でマイルドなものを作るほどのこだわりぶりです。

　食後のオーダーで人気なのがベトナムバナナケーキ（400円）です。フランスパンをココナッツミルクに浸して作るこのケーキはバターなどの油分を一切使用していないため、重くなく、ついつい食べ過ぎてしまいます。ラム酒と砂糖につけたバナナの味がケーキ全体に広がるため、油分がなくてもしっかりとコクを感じることができるのです。挟んでいるしっとりしたバナナと、トップにあるこんがり焼かれたバナナの食感も異なり、味、食感のいずれもが複雑に絡み合う奥深いケーキとなっています。

満足せず、妥協せず、こだわりを忘れないお店

　アジア料理に必要不可欠の化学調味料を一切使用せず、香草は自ら育て、パテもハムもさらにはマヨネーズまで自家製。「インスタグラムに写真をあげるときの文章は1時間くらい考えてしまいます。」と笑う美濃さんはとにかくこだわり屋で、自分が納得するまで研究を怠りません。そんな並々ならぬ努力こそが、オープン2年にして早くも古き良きを愛する町屋の住人に認められる秘訣なのでしょう。

■文、写真・片岡力也